わたしたちの健康2023年10月号 尿失禁
朝霞地区医師会 楠山 弘之
高齢化に伴い、尿のトラブルを抱える人が多くなっています。尿失禁とは自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことで、本人あるいは周囲の人がこれにより困っている状態をいいます。
尿失禁にはいくつかのタイプがあります。代表的なものとして1.症候性尿失禁、2.腹圧性尿失禁、3.切迫性尿失禁、4.溢流(いつりゅう)性尿失禁、5.機能性尿失禁、などがあります。
- 症候性尿失禁は、膀胱(ぼうこう)炎や膀胱結石などにより急に発症することが多く、原因となる病気を治すことで改善が期待されます。
- 腹圧性尿失禁は、重い荷物を持ち上げた時、ジャンプをした時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入った時に尿が漏れてしまいます。女性の尿失禁の中で最も多く、週1回以上経験している女性は500万人以上といわれています。これは骨盤底筋群という尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉が緩むために起こり、加齢や出産を契機に出現したりします。荷重労働や排便時の強いいきみ、喘息(ぜんそく)や肥満なども骨盤底筋を傷める原因になるといわれています。多くの場合は、骨盤底筋訓練で尿道のまわりにある外尿道括約筋や骨盤底筋群を強くすることで、改善が期待できます。また、肥満の方や最近急に太った方では、減量が有効なことがあります。骨盤底筋訓練などの保存的療法では改善しない場合、又は不満足な場合は手術の適応となります。
- 切迫性尿失禁はあまり尿がたまっていなくても急に尿がしたくなり(尿意切迫感)、我慢できずに漏れてしまうことをいいます。トイレが近くなったり、トイレにかけ込むようなことが起きたりしますので、外出中や乗り物に乗っている時などに大変に困ります。もともと排尿は脳からの指令でコントロールされていますが、脳血管障害などによりそのコントロールがうまくいかなくなった時など原因が明らかなこともあります。しかし多くの場合、特に原因がないのに膀胱が勝手に収縮してしまい、尿意切迫感や切迫性尿失禁をきたしてしまいます。男性では前立腺肥大症、女性では膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器脱も切迫性尿失禁の原因になります。この治療は薬物療法が多くの場合有効です。飲水コントロール、骨盤底筋訓練、尿意があっても少しがまんする膀胱訓練などの行動療法を併用します。
- 溢流性尿失禁は重症の前立腺肥大症や、糖尿病や脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症などの末梢神経障害、骨盤臓器脱などで起こります。また、直腸癌(がん)や子宮癌の手術後などに膀胱周囲の神経の機能が低下してしまっている場合もあります。尿の出が悪いにもかかわらず、体を動かすと自然に漏れてしまいます。自分で尿を出したいのに膀胱から尿を出せない状態で、あふれ出てしまう状態です。排尿した後でも膀胱の中に残尿が多く、頻尿を伴います。この治療は元の病気を治すことになりますが、その治療が困難な場合には、自分自身で尿をとる間歇的(かんけつてき)自己導尿などの方法がとられます。
- 機能性尿失禁は排尿機能が正常にもかかわらず、身体運動機能の低下や認知症が原因でおこる尿失禁です。たとえば、歩行障害のためにトイレまで間に合わない、あるいは認知症のためにトイレで排尿できない、といったケースです。この尿失禁の治療は、介護や生活環境の見直しを含めて、取り組んでいく必要があります。
このように尿失禁の種類や程度により、治療法は様々です。尿失禁は生命に直接影響するわけではありませんが、いわゆる生活の質を低下させてしまう病気です。困ったなと思ったら恥ずかしがったり、年齢的なこととあきらめたりせずに、まずかかりつけの医師にご相談ください。
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