わたしたちの健康2023年6月号 高齢者の慢性腎臓病:CKD
朝霞地区医師会 明石 真和
はじめに
CKD(Chronic Kidney Disease)とは腎臓に何らかの障害が慢性的に存在する状態のことを言います。そして治療が困難なCKDを患ってしまったり、CKDであることに気付かないまま歳を重ね、進行してから気付いたりするとやがて腎臓の機能は衰え、倦怠感、食欲低下、むくみなどの症状が認められるようになります。このような状態を末期腎不全と言います。そうなると薬での治療が困難となり腎代替療法が必要となります。腎代替療法とは働けなくなってしまった腎臓の代わりに、他の方法で腎臓の働きを補う治療のことです。腎代替療法には2つあり、1つは腎移植、もう1つは透析です。2021年の報告では末期腎不全となり腎代替療法が必要となった方のうち、腎移植を受けられた方は1,773人、透析を開始された方は37,961人とされ、圧倒的に透析を開始されるケースが多い現状にあります。透析には血液透析と腹膜透析の2つの方法がありますが、血液透析は週3回通院し約4時間ベッドに寝ていなければならないことや、毎回針を刺されなければならないといった制約があります。そのため透析に対してあまり良いイメージ持たない方が多いと思います。しかし、それは大きな誤解で日本の透析医療は諸外国と比べても高い水準にあり、医療従事者も透析を受ける方に苦痛のないよう、そして安心してお過ごしいただけるよう精進しています。生きるために必要な治療であることを誤解せず認識していただければと思います。
高齢者のCKD
CKDの進行を予防するための治療は進歩しています。一方で日本人の平均寿命が高くなるにつれ高齢者のCKD患者さんが増え、加齢により末期腎不全まで進行する方も増えています。2021年、透析を開始された方の平均年齢は71.09歳と年々高くなっています。高齢になってから透析を開始された方の中には透析後の疲労感や針を刺される苦痛等の理由から、透析を選択したことでむしろ生活の質が低下したと感じる方もいらっしゃいます。
保存的腎臓療法:CKM
2015年「国際的腎臓病ガイドライン機構」では「計画的、全人的で、患者さん中心の末期腎不全に対するケアであり、腎臓病の進行を遅らせたりする介入治療を含むが、特に症状の軽減と心理的、社会的なサポートを重視し、透析療法を含まないもの」と定義付けたCKM(Conservative Kidney Management)、と言う考え方を報告しています。つまり、末期腎不全となったとしても症状の緩和に重点を置き、透析は行わないということです。
以前は末期腎不全となった場合、医師の判断のみで透析開始ということが多くありました。しかしそういった一方的な方針決定は過去の話で、現在の末期腎不全に対する治療方針は医療従事者と患者さん、そしてご家族が話し合いで決めていくことが主となっています。透析のメリット、デメリットについてご理解いただき、その上で透析を選択された場合、患者さんのご病状や生活スタイルに合わせて血液透析か腹膜透析、どちらの治療法が良いのか話し合います。
一方で最近、ご高齢患者さんに対しては透析を選択しないという考え方があるということもお話します。透析を選択しないとどのような症状が出現し、その症状に対してどのような治療があるのか。結果としてどのような転機が訪れるのか。そのことについてじっくり説明します。
最終的に透析を行わないという選択をされた場合、医療従事者はその意志を尊重し全面的にサポートしていく。これが前述のCKMという考え方です。
おわりに
患者さんが末期腎不全となった場合、医師として腎代替療法を勧めることは当然です。更に前述のように透析医療はそれを受ける方々の人生の負担にならないよう、日々進歩しています。一方で高齢者のCKD患者さんが増えている現在、透析を選択しないという考え方(CKM)が世界的に広まり、その際のサポート方針も固まってきています。今後は医師個人の価値観だけを押し付けることのないCKD治療方針が必要になってきています。
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