わたしたちの健康2023年12月号 訪問診療について
朝霞地区医師会 町田 穣
訪問診療とは、自宅に医師が訪問をして、患者さんが自宅で診療を受けられるサービスを指します。医療保険を利用することが可能です。
いつもは元気に一人で通勤通学するなど、自立した生活ができる人が、急に体調を崩したため、医療機関を受診するのが困難であるというときに、訪問診療を利用できるでしょうか。残念ながらそのようなケースでは、訪問診療を利用することはできません。厚生労働省は「在宅療養を行う患者であって、疾病・傷病のため通院が困難なものに対して定期的に訪問して診療を行うこと。継続的な診療の必要のない者や通院が可能な者に対して安易に算定(※)してはならない。」と訪問診療を定義し、訪問診療を受けられる人を限定しています。よって、訪問診療は、持病や障がいがあったり介護が必要な状態などのため、在宅療養を継続的に受けていて、外出による通院が困難な患者さんに対して、医師が定期的な診療が必要だと認めた場合に、受けることができます。
訪問診療と似た言葉に往診があります。厚生労働省は「医師が、予定外に、患者の家に赴き診療を行うこと。往診は診療上必要があると認められる場合に行う。」と往診を定義し、必要性がある場合だけ提供できると限定しています。往診は、定期的に訪問診療を受けている患者さんが、急にいつもと違う症状になった場合に、患者さんの要請に基づいて主治医が行うのがほとんどのケースです。
通常とは異なる往診として、最近では新型コロナ流行期の医療崩壊に伴う緊急事態下の往診がありました。2021年夏に東京オリンピックが開催されていた頃の新型コロナ流行を憶えている方もいると思います。当時新型コロナと診断された人は、全員が入院又はホテル療養の対象になっていたため、病院には空きベッドがほとんどありませんでした。救急車を呼んでも入院できる病院が見付からないため、持病がなかったり普段元気な人の多くは、自宅で様子をみるしかありませんでした。そのため、自宅で様子をみている間に息が苦しくなり酸素投与が必要な状態になったり、食事が摂れず脱水になり点滴治療が必要になったりする人が、朝霞保健所管内にも大勢いました。保健所から要請を受けて、私たち訪問診療に携わる医師が、通常は行わない緊急対応として往診をし、酸素投与や点滴治療などを行いました。
訪問診療の利点は、医師が患者さんの生活を、患者さんの自宅で確認できることです。患者さんが浴槽をまたいで湯船に入れるか、室内に段差があって転ぶ危険性はないか、トイレで立ったり座ったりできるか。食事は誰が用意しているのか、食事内容に偏りはないか。緊急時に相談できる家族や友人はいるか、近所にいるのか遠方なのか。生活を送る上でどのタイミングで、どんな人がサポートに入ったら、自宅で過ごし続けることができるか。リハビリをしたら生活する上で必要な身体機能を維持増進できるか。自宅で最期を看取ってほしいのか、家族に迷惑をかけたくないなどの理由で最期は入院をしたいのか。このように患者さんがどのような生き方や生活を望んでいるのか、話を聴き観察をしながら、家族や介護保険サービスやその他の人たちの手を借りるためのマネジメントを行うことも、医師の大切な仕事の一つです。
加齢による変化や病気、心身の機能が低下したため、ほとんど外出せずに自宅でひっそりと過ごしている人が、この地域にも大勢いらっしゃいます。そのような人たちが、訪問診療に携わる医師や、介護保険サービスの従事者などと接することによって、再び社会との関わりを持つようになり、社会の一員として生活できるようになります。訪問診療は、誰もが社会とつながって生活ができるようになるために必要な、医療の一つの機能です。
※ 算定:医療保険を用いて医療を提供し、医療機関が対価として報酬を得ること
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