わたしたちの健康2023年3月号 ヒトメタニューモウイルス
朝霞地区医師会 上牧 勇
はじめに
ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus hMPV)は、2001年にオランダの研究グループにより急性呼吸器感染症の小児から発見された、比較的歴史の浅いウイルスである。遺伝子の構造は、小児で呼吸器感染症を引き起こす、RSウイルスに類似している。
小児で流行する呼吸器感染症のウイルスには、現在流行中の新型コロナウイルスの他、インフルエンザウイルス、RSウイルスなどがある。これらは、メディアにも取り上げられる機会が多く、知名度が高いのに対して、ヒトメタニューモウイルスは、マイナーな印象が拭えないが、肺炎や細気管支炎で入院する乳幼児においては一般的である。今回は、小児だけでなく、成人の肺炎の原因としても重要なヒトメタニューモウイルスについて解説する。
ヒトメタニューモウイルスの特徴
疫学
乳児期から感染し、5歳までにほとんどの小児が罹患すると報告されている。RSウイルスの感染症が乳児で問題になることが多いのに対して、ヒトメタニューモウイルスは年長児にも多いことが特徴である。季節的には冬から春先にかけて流行することが多いが、コロナの流行によりウイルスの流行時期がコロナ前とは変化し、2022年にはRSウイルスと同時期に流行が見られ、入院する乳幼児が増加した。
成人においては、いわゆる風邪症状を呈することが多いが、入院した成人肺炎の4%程度がヒトメタニューモウイルスであったとする報告がある。特に高齢者においては軽視できないウイルスである。
症状
潜伏期間は5〜9日間である。発熱、咳、鼻水といった風邪症状を呈して、その症状はRSウイルス感染症に似ている。乳幼児では、ゼーゼーして夜眠れなくなったり、呼吸が苦しくなって酸素が必要となる場合もある。咳や喘鳴のピークは発症後5〜7日目になることが多く、発熱の期間は5日以上になることもある。1回の感染では十分な免疫を得ることができず、再感染が一般的である。
検査
臨床症状のみで、RSウイルスなどと区別することはできず、迅速検査が有用である。インフルエンザの検査と同じように鼻に綿棒を入れて検査を行い、結果は15分程度で判明する。ただし、迅速検査の保険適用が認めれられているのは、6歳未満で、レントゲンなどで肺炎が疑われる症例に限るため、診断されていないヒトメタニューモウイルス感染症の小児が多数いると考えられる。
治療
ウイルスを直接攻撃するような治療薬はない。そのため、発熱に対しては解熱薬を使い、咳などの症状に対しては痰を出しやすくするような去痰薬などによる対症療法が主体となる。飲食ができなくなったり、呼吸困難を認めた場合には、入院の上、点滴や酸素投与などが必要となる。
感染対策
家族内での感染や、保育園、幼稚園、高齢者福祉施設などにおいて集団感染を起こすことがある。感染力が強いので注意が必要である。飛沫感染と接触感染が主体なので、距離をとること、手洗いやアルコールによる手指消毒をすること、タオルなどを共用しないことなどの基本的な感染対策を守ることが重要である。学校、幼稚園、保育園などの通学、通園について、学校保健安全法における出席停止期間の定めはない。そのため、通院しているクリニックや病院の先生の指示に従うことになる。一般的には、発熱がなく、咳などの症状が軽快すれば、登園や通学が可能と考えられる。
まとめ
ヒトメタニューモウイルスは、乳幼児だけでなく、高齢者の肺炎の原因としても重要なウイルスである。治療法がないため、予防が大切である。ヒトメタニューモウイルスに特有の感染対策はなく、新型コロナウイルスと同様に基本的な感染対策を怠らないようにすべきである。
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