わたしたちの健康2023年8月号 アニサキス症
朝霞地区医師会 大城 周
魚介類を生で食べる習慣は、寿司や刺身に代表されるように、日本の食文化の大きな特徴の一つであるといえるでしょう。しかし一方で、魚介類の生食は寄生虫による食中毒を引き起こすリスクがあります。それがアニサキスという寄生虫です。アニサキスによる食中毒は、近年の日本の食中毒報告の約40%を占めています。
アニサキスとは?
アニサキスは長さ2-3cm、幅は0.5-1mmくらいで、白色の少し太めの糸のような形をしています。アニサキスは本来人間に寄生する寄生虫ではなく、クジラやイルカなどの海洋哺乳類の体内で成虫になります。その幼虫は魚介類(サバ,アジ,イワシ,サンマ,イカ,サケ,スケトウダラ,ホッケなど)に寄生していて、幼虫の寄生した魚介類を人間が食べることにより体内に取り込まれます。人間の胃腸に入り込んだ幼虫が胃や腸の壁に潜り込み、食中毒(アニサキス症)を発症します。
アニサキス症とは
アニサキス症は、(1)胃や腸(消化管)の中にとどまる消化管アニサキス症、(2)消化管外まで移行した消化管外アニサキス症、(3)虫体および分泌成分に対するアレルギーの3つの型に分類されます。アニサキス症として診断されるものの多くは、(1)消化管アニサキス症のうちの胃アニサキス症です。ここでは胃アニサキス症を中心に説明していきます。
胃アニサキス症の症状
胃アニサキス症では、食後数時間から十数時間の間に、みぞおちの激しい痛み、悪心(おしん)、嘔吐などを生じます。このような激しい症状は、胃潰瘍や胆石症、急性膵炎(すいえん)、虫垂炎の初期や、心筋梗塞など他の病気と区別する必要があります。患者さんからの食事内容の申告や、医師の問診が診断に重要です。
診断と治療
魚介類の摂取に関する問診や激しい上腹部痛などから、アニサキス症が疑われた場合には、直ちに胃カメラ(上部消化管内視鏡)を行います。胃カメラは胃壁に入り込んだアニサキスを見つけることが出来るため、アニサキス症の診断ができます。また、アニサキスを取り除く処置が行えるのも胃カメラのメリットで、診断と治療を兼ねた処置です。アニサキスを胃カメラで摘出すると、激しい腹痛が速やかにおさまってしまうのも、胃アニサキス症の特徴です。
予防と対策
アニサキス症を予防するには、アニサキスを生きたまま体に入れないようにすることがとても重要です。したがって、魚介類の生食は可能な限り避けるのが無難です。
魚介類を加熱調理(中心温度60℃で1分以上または70℃以上)や十分な冷凍(-20℃で24時間以上)をすることでアニサキスは死滅します。
魚介類を生で食べる場合は、できるだけ鮮度の良いものを選びましょう。また、アニサキスは内臓に寄生していることが多く、魚が死んで時間が経つと内臓から筋肉に移動します。魚の内臓は速やかに取り除き、絶対に生では食べないようにしてください。
迷信にはご注意を!
世間では、アニサキスは酢や塩、しょうゆ、ワサビなどの調味料を使えば大丈夫だとか、よく噛めば平気だと言われることがあります。しかしながら、そのようなことは迷信であり、誤った対処法です。通常に使用する調味料の量では、アニサキス幼虫は死滅しません。また、アニサキスの表面はなめらかで丈夫で、噛み切ることは困難です。くれぐれも迷信には惑わされないようにしましょう。
アレルギーにもご注意!
最近ではアニサキス症に一度なり、アレルギーになる例が報告されています。そのような場合、次に食べたときに、アナフィラキシーショックなどを起こしたり、アニサキスの死骸にも反応するようになるので注意が必要です。
正しい知識をもち、適切に処理された魚介類を選べば、アニサキス症を過度に恐れることはありません。生の魚介類を食べたあとに激しい腹痛が生じた場合には速やかに医療機関を受診することも重要です。
私たちも基本的な対策を身につけた上で、これからも美味しく海の幸を食べていきたいものです。
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