わたしたちの健康2024年8月号 睡眠障害
朝霞地区医師会 石井 和夫
睡眠に関連した病気をまとめて睡眠障害といいます。症状としては、寝入りに時間がかかる、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚める、寝ているときに息が止まり何度も目が覚める、日中の耐え難い眠気、大きな寝言、睡眠中に夢を見て暴れる、足がむずむずして眠れない、昼夜逆転して学校や仕事に行けない、少しずつ寝る時間が遅くなる、といったものです。
睡眠障害は大きく分類すると、①不眠症、②過眠症、③睡眠時随伴症があります。原因はストレス、生活習慣や睡眠環境のほか、精神疾患や身体疾患、アルコール、薬剤の副作用など様々です。睡眠障害は生活習慣病やうつ病といった病気や事故のリスクを高めることがあり、正しい診断、原因に応じた適切な生活指導や治療を受けることが大切です。
①不眠症は、睡眠障害のなかで最も多く、入眠障害(寝つきが悪い)、中途覚醒(眠りが浅く途中で何度も目が覚める)、早朝覚醒(早朝に目覚めて再び眠ることができない)があり、日中に倦怠感、意欲低下、集中力低下、食欲低下などが出現する疾患です。睡眠障害の方のうち約30~40%の人が、これらの症状を一時的に経験し、約10%の人が慢性的な不眠症です。不眠で悩む人の割合は、加齢に伴って増加し、60歳以上では約半数の方で認められます。眠れない日が続くと、「また眠れないのでは」という不安などで、更に不眠が悪化するという悪循環が生じます。
②過眠症は、日中に過剰な眠気が生じます。仕事や学習など日常生活に支障を来す場合は、病的と考えられます。ナルコレプシー、特発性過眠症などの疾患があります。
③睡眠時随伴症は、睡眠中に起こる異常な行動や体験を特徴とします。例えば、小児に多い睡眠時遊行症(夢遊病)や、悪夢、夜驚(やきょう)症、高齢者に多いレム睡眠行動障害などがあります。
その他、体内時計と環境のリズムが合わなくなる概日(がいじつ)リズム睡眠障害や、夜間のいびきと無呼吸、日中の眠気、疲労感を伴う睡眠時無呼吸症候群、睡眠に伴って下肢を中心とした異常感覚が出現するレストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)など、専門的な検査が必要になる疾患もあります。
睡眠障害の治療では、体内時計を整えるため、まず生活習慣の見直しが大切です。睡眠をとりやすい環境づくりとして、同じ時間に起きて、日中に日光を浴びるようにしましょう。また、寝室は照明を暗めにする、エアコンなどで室温を調節する、スマートフォンを持ち込まないようにする、就寝の1~2時間前に入浴することなどが推奨されます。適度な運動や規則正しい食事、寝る前の読書や音楽といったリラクゼーションも有効です。そのほかにも、夕方以降はカフェインの摂取を控える、過度なアルコール摂取を避ける、眠るために飲酒をしないことも大切です。無理に寝ることにこだわらず、眠れなければ寝床から一度出ることも勧められます。
それでも改善しない場合、睡眠薬による治療が一般的であり、日本では成人の5%が服用しています。最近ではメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗(きっこう)薬といった比較的安全性が高い薬剤も増えました。また、認知行動療法という心理療法も有効性が示されています。
OECD(経済協力開発機構)の2021年調査によると、日本人の平均睡眠時間は、7時間22分で加盟国33か国の中で最も短いという結果でした。令和6年2月に厚生労働省は新たな睡眠指針として、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公開し、推奨する睡眠時間や生活習慣などを示しています。
睡眠には個人差がありますが、十分な睡眠を確保することは、心身の健康を保持し、生活の質を向上させるために重要です。睡眠での困りごとがあれば、まずかかりつけ医にご相談ください。
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