わたしたちの健康2024年2月号 整形外科におけるロボット支援手術

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ページ番号1010628  更新日 2024年3月6日

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朝霞地区医師会 林 淳慈

 整形外科手術におけるロボット支援手術は、1980年代後半に人工股関節置換術において開始されました。手術の計画と大腿骨の掘削をロボット自らが行うものであり、正確性は素晴らしいものでしたが、筋肉を傷つけてしまう欠点が浮き彫りになり、使用頻度が減少しました。その後は、ナビゲーションシステムが発達するようになりました。ナビゲーションシステムは、当初は術前に撮影したCTスキャンのデータを利用するような大きな機械でしたが、最近では加速度計や現実拡張の技術を搭載したポータブルナビゲーションも汎用されています。ナビゲーションシステムとは、手術計画を精密に術中に示してくれますが、手術自体は基本的にヒトが行います。自動車の運転と同様で、ナビゲーションシステムは地図や右折、左折を指示してくれますが、運転するのはヒトです。それに対し、ロボット支援手術は、自動運転や衝突回避のアシスト機能と同じようなもので、運転者の意思は関係なく自動走行や自動停止をコントロールします。
 長い時を経てわが国においても2017年よりセミアクティブシステムのロボットが使用されるようになりました。アクティブシステムは、先ほどのように手術自体をロボットが行いますが、セミアクティブシステムでは骨を掘削する方向や量を規定するのみで、基本的にはヒトが手術を行います。例えば、慣れている上級の医師が、経験の浅い医師の手を支えて手術を行うようなイメージです。現在、人工股関節置換術に使用できるロボットは2種類、人工膝関節置換術に使用できるロボットは5種類、脊椎(せきつい)手術に使用できるロボットは3種類です。ロボット支援手術のメリットは、正確性です。例えば、人工股関節置換術の設置位置で脱臼する可能性が低い安全域にインプラントを設置できる割合は、ロボット支援手術では100%であるのに対し、ナビゲーションもロボットも使用しないで人間の見た目と腕で行う手技では、その確率は80%以下です。安全域をより厳しく、狭く設定すると、その割合は60%に低下します。安全域に設置できない場合には術後に脱臼しやすくなり、再手術の割合が増えます。人工膝関節置換術においても設置位置のばらつきが、ロボット支援手術では大きく減少します。ロボットやナビゲーションを使用しない場合の外れ値は25%ですが、ロボットを使用する場合には0%との報告もあり、さらには、疼痛、機能などの臨床成績においても通常の手術に比べ、良好であることが報告されています。
 また、人工膝関節置換術においては、患者さんのもって生まれた下肢の形態(O脚、X脚)や膝の靱帯(じんたい)バランスを考慮に入れた、一人一人異なった術前計画を立てることが可能です。術中に骨を切除する条件を0.5度、1mmの精度で変化させた際に、関節の内外側のギャップがどのように変化するのかが瞬時にシミュレーションされます。膝関節がどの角度においてもきつすぎず、緩すぎない骨切除条件を探し、これをロボットと共に正確に遂行します。ロボットの種類によっては、計画した骨切除範囲を超えて、術者が骨を切除できないような制御システムを備えている機種もあります。また、骨を切除した面が正確に仕上がっているかを検定することも可能です。脊椎領域では、脊椎にスクリューを正確に挿入する目的で2020年以降、ロボットの導入が開始されました。
 この分野は日本においては開始されたばかりですが、すでにオーストラリアでは人工膝関節置換術の分野においては25%で使用され、ナビゲーション手術や何も使用しない従来型の手術の件数を追い抜こうとしており、整形外科手術の成績向上には必須のアイテムとなることが予測されます。

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