わたしたちの健康2024年1月号 年頭所感

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ページ番号1010541  更新日 2024年3月6日

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朝霞地区医師会 会長 滝澤 義和

 皆さん、新年明けましておめでとうございます。つつがなくお過ごしでしょうか。さしもの憎き微生物も、ひと頃の猛威は失われてきました。感染症対策の国際比較では、日本は世界のどの国よりも人的被害を低く抑えられたものと思われます。それでも多くの反省点、検討課題はあるわけですし、経済を含めた社会復帰の観点について、次に備えていく必要があります。短期間にウイルスに対するワクチン開発を可能とした研究で、世界中の多くの命を救ったカタリン・カリコ氏らがノーベル賞を受賞されたのも、記憶に新しいところです。
 さて、今回は「トリアージ」を話題にとりあげたいと思います。トリアージとは、災害時など同時に多くの負傷者が発生した際に、医療機関に来院した順に関わらず、診察や処置の優先順位を決める事で、『選別』という意味のフランス語に由来しています。
 傷ついた人を助ける為の医療資源も医療従事者の時間も、無限ではありません。専門的医療は必要なく、半日後でも命に別状のない多くの軽傷の方や、残念ながら既に助かる見込みのない方に労力と時間を費やすより、直ちに救命処置を施せば助かる方が優先されるという事は理にかない、結果、皆の為になるという考え方に基づいています。
 以上は大災害時のお話しでしたが、実は医療におけるトリアージ問題は毎日、全国で発生しています。本日、たった今もです。一つは救急車出動について。日本では救急コールがあれば、救急隊はこれを拒めませんし、世界では珍しく、全て公費で賄われ、患者負担はありません。軽傷でありながら、不安の為に毎日救急車を呼んだり、タクシー代惜しさに救急コールしたり、救急車で行くと早めに診てもらえると悪知恵を働かす者までいます。
 その結果、救急車が常に出動を強いられ、救急要請にすぐには応じられなくなり、直ちに救命が必要な方の命が救えなくなる事がありえます。これらはトリアージがうまく機能していない悪い例と言えます。安易に救急車をコールするのは慎むべきですが、もちろん急を要するのか迷う場合も多々あると思います。日中であれば、かかりつけ医にご相談ください。夜間・休日等であれば、小児なら#8000、大人なら#7119で問い合わせましょう。最近では、AIによる対応も始まっています。
 もう一つは、地域における大病院とクリニックとの役割分担です。病院へ多くの軽症患者さんが押し寄せると、病院機能が麻痺します。スタッフは軽症者対応に追われ、相当の勤務時間を割く事になり疲弊し、その分、本来の病院の役割である重症者へのケアに集中できません。せっかくの先進医療機器も使われる機会が減り、無用の長物になるでしょう。
 「選定療養費」についてはご存知でしょうか。病院受診時にそのまま入院が必要な場合は免除されるなどいくつか条件はありますが、簡単に言うと、かかりつけ医等の紹介状を持たずに、つまりトリアージを受けずに病院を受診した際に、通常の支払い以外に発生する費用です。保険は効かず、全額実費の患者負担となります。以前は400床以上の大病院のみでしたが、今は200床以上の病院が対象となりました。また、その最低額も徐々に引き上げられ、現在では初診時に7,000円以上が義務付けられています。
 高度医療や救命救急を担うという基幹病院の重要な役割を守るという事は、その結果より多くの市民の命を救う、守るという事に繋がります。本当に今、救急車が必要なのか、大病院受診が必要なのかを、問い直す機会になればと思います。

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