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わたしたちの健康2010年12月 胃食道逆流症(GERD)

胃食道逆流症(GERD)

執筆者:朝霞地区医師会 丹羽 静香(にわ しずか)

 最近、外来患者さんの中に「胸やけがする」、「酸っぱいものがこみ上げてくる」、「みぞおちから胸が痛い」、「胸やのどに物がつかえる」、「風邪でもないのに咳<せき>が続く」などの訴えで来院される方が増えてきているように思います。これらの症状の大部分は胃食道逆流症(以下GERD)という、胃酸が食道や咽<いん>頭、肺、時には口腔<くう>内から耳にまで逆流することにより引き起こされる症状なのです。

 もともと胃袋は、自ら分泌する胃酸で自分自身が消化されないように防御する能力が備わっていますが、そのほかの臓器である食道、咽頭、肺は胃酸に対して無力です。そのために胃から逆流した胃酸が様々な症状を引き起こすと考えられています。気管支喘<ぜん>息患者さんの約半数の方はGERDが関連しているという報告もされています。

 では、なぜ最近になってこのようなGERDが増加してきているのでしょうか?その回答はどうやら最近の日本人の生活習慣、すなわち食生活の変化から生じている可能性が高いようです。

 では、我々の食生活の何がGERDを引き起こしているのでしょうか?その原因の第1は、日本人の脂肪摂取量が増加していることに関連があるようです。

 終戦後、食事により摂取される総カロリーのうち、脂肪分は10%からなんと30%近くへと増加しています。脂肪分の摂取が増加すると、胃内で脂肪を消化するために多量の胃酸が必要であり、そのためにより多くの胃酸が分泌されること。また、脂肪分は胃内での消化に時間がかかるため胃内より十二指腸以下の小腸への食物の排出が遅れ、胃が拡張すること。それと相まって、脂肪分は食道と胃をつなぐ食道の下端部にあり、食道と胃の間で関所の役割をしている食道下部括約筋の緊張状態を緩めることにより、容易に胃内より食道内への胃酸の逆流を引き起こすこと。これらが最近GERD増加の理由として明らかになってきました。

 原因の第2としては、近年、衛生環境、とりわけ上水道が完備されてきたことによる飲み水よりのピロリ菌感染率が若年層を中心として著明に減少してきており(日本人は従来欧米人と比較してピロリ菌の感染率が高く、ピロリ菌感染が起こると結果として胃粘膜からの胃酸分泌が減少し、つまり、GERDが起こりにくかった)、欧米諸国並みにGERDが起こる環境ができつつあることが考えられます。

 GERDの診断は、一般に自覚症状と上部消化管内視鏡(胃カメラ)により行われます。

 胃食道接合部に赤いただれや潰瘍<かいよう>を認めることが多いのですが、症状と内視鏡所見は必ずしも一致するとは限らず、かなり重症な内視鏡所見でも無症状な患者さんや、また逆に全く内視鏡所見が無くてもかなりつらい症状の患者さん(NERDといいます)もいらっしゃいます。

 GERDによく見られる症状の患者さんの中には食道がんが見つかることもありますし、胃潰瘍や胃がんの患者さんもいらっしゃいます。また、GERDを長く患う方にはバレット食道がんという最近日本でも増加傾向のがんが見つかることもあります。

 したがって、特に初診時においては、ほかの疾患を除外するためにもぜひ一度内視鏡検査を受けていただきたいと思います。GERDの治療としては、脂っこい食物や香辛料の効いた食物、また、おまんじゅうなどの甘みの強いものを食べすぎないこと、特に睡眠前3時間は食べない方が無難です。ほかには、ウエストをベルトなどで締め付けないこと、前かがみの姿勢を避けることなどが有用です。以上の生活習慣を守っても辛い症状が続く方にはプロトンポンプインヒビターといわれる胃酸分泌を抑制する薬や、胃運動改善薬がよく効いてくれます。
 

 


 昭和47年ごろから、朝霞地区医師会に寄稿いただき、朝霞・新座・和光・志木の四市広報に「わたしたちの健康」と題し、市民向けの医学情報を提供しています。

 原稿の執筆は、朝霞地区医師会に所属する開業医又は病院の、実際にこの地で日々診療にあたり、毎日患者さんと接している医師が担当しており、高齢者から若い方まで幅広い人々を対象とした内容を、理解しやすい文章でお届けするよう心がけています。皆さんの毎日の健康にお役立てください。

内容についてのお問い合わせは、朝霞地区医師会(電話048-464-4666)へご連絡ください。

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