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わたしたちの健康2012年2月 大規模災害とトリアージ
執筆者:朝霞地区医師会 栗原友介
昨年の東日本大震災から間もなく1年が経とうとしています。原発事故の収束もままならない中、近い将来には首都直下型地震や東海・東南海・南海地震などの発生も非常に高い確率で危惧されており、大規模災害対策の充実はますます重要になっています。
医療における大規模災害対策には様々な局面がありますが、瞬間的に大量の死傷者が発生する災害初期の局面で重要な役割を果たすのが救急医療です。しかし平時と違って、一度に多数の重症患者が発生するような集団災害では、たとえ高度な救急医療施設であっても全ての傷病者に必要な医療を早期に施すことが物理的に困難になる、ということが起こります。このような場面での医療現場の対応策の一つにトリアージというものがあります。本稿ではトリアージについて解説するとともに、被災に備える心得について考えたいと思います。
トリアージとは
トリアージとはフランス語で選別という意味です。医療においては、患者の治療優先度を選別するということで、その方法も含めた用語として用いられます。
全ての傷病者に十分な医療が可能な場合であれば治療の優先度は主に重症度や緊急度により決定され、いかに重症で救命困難な傷病者であっても最後まで最大の治療努力が傾注されます。一方、集団災害のように傷病者の数や重症度が現場の医療水準を上回る状況においては、あまりに重症すぎる人を優先的に選んでいると、その傍らで助かるべき生命が失われることにもなりかねません。すなわちトリアージとは、限られた医療資源を最大限に生かすために本当に助ける事ができる患者だけを選ぶことも意味します。したがって、生存者であっても救命の可能性が低かったり治療に手のかかりすぎる重症者は見捨てられることもあるという大変厳しい選別になります。
トリアージの方法
以下の4段階に分類し色分けします。
- 0 死亡群 黒
死亡。生命にかかわる重篤な状態であるが、その救命には現況以上の医療能力(資機材・人員)が必要であり、全傷病者の救命に不利益となるため、該当する時点での救命の適応がないもの。
- Ⅰ 最優先治療群 赤
生命にかかわる重篤な状態で一刻も早い処置をすべきもの。
- Ⅱ 待機的治療群 黄
赤ほどではないが、早期に処置をすべきもの。
一般に、今すぐ生命にかかわる重篤な状態ではないが、処置が必要であり、場合によって赤に変化する可能性があるもの。
- Ⅲ 保留群 緑
今すぐの処置や搬送の必要がないもの。完全に治療が不要なものも含む。
判定は専任の医療従事者が行いますが、最も経験を積んだ医師が行うことが望ましいとされています。判定に基づき、それぞれの色の札(トリアージタッグ)に必要事項を書きこんで傷病者の右手首に取り付けます。治療、搬送の優先順位はⅠ→Ⅱ→Ⅲ→0となりますが、現場の状況や傷病の状態は刻々と変わりますので、繰り返し判定します。
震災とトリアージ
我が国における救急医療は、阪神淡路大震災を機に急速に発展し、トリアージの概念もそれとともに普及しました。阪神淡路大震災では多くの建築物が倒壊したため赤タッグに相当する外傷患者が多数発生し、そのうちの相当数が救出後に死亡したことへの反省も契機となっています。
先般の東日本大震災では、多くの医療機関や救助隊が被災後すみやかにトリアージセンターを設置しています。この災害では、地震で倒壊した建築物はそれほど多くなかったものの、津波では多数の溺死者が発生したため、ほとんどが緑タッグか黒タッグだったと言われています。
被災に備える心得
被災した場合、まず何と言っても負傷しないことが基本です。新潟県中越沖地震や東日本大震災では地震による建築物の倒壊が少なかったことからも、耐震に関して我が国の行政や建設業界は明らかな成果を上げてくれています。しかし、建物が強くなったとはいえ物の転倒落下や、人が転倒転落する危険は免れません。耐震グッズなどでの補強や、防災訓練などにも積極的に参加するというような個人個人の自衛も大切でしょう。
不幸にも自分や身内が負傷してしまったらどうすべきでしょう。阪神淡路大震災では破壊の著しい病院に患者が集中し、ほんの数km離れた被害の少ない病院にはあまり患者が来なかったと言われています。トリアージを経ずともすみやかに十分な診療を受けるためには、被災者の集中する被害の大きい地域の病院は可能な限り避け、被災地からできるだけ離れた被害の少ない病院へ行くようにしましょう。こうすることで自分を守るだけでなく被災地の病院とそこを受診する他の負傷者への負担を少しでも減らすことにもなるのです。
昭和47年ごろから、朝霞地区医師会に寄稿いただき、朝霞・新座・和光・志木の四市広報に「わたしたちの健康」と題し、市民向けの医学情報を提供しています。
原稿の執筆は、朝霞地区医師会に所属する開業医又は病院の、実際にこの地で日々診療にあたり、毎日患者さんと接している医師が担当しており、高齢者から若い方まで幅広い人々を対象とした内容を、理解しやすい文章でお届けするよう心がけています。皆さんの毎日の健康にお役立てください。
内容についてのお問い合わせは、朝霞地区医師会(電話048-464-4666)へご連絡ください。
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